特定芳香族アミンを生成するアゾ化合物試験について
特定芳香族アミン類のお話をする前に、アゾ色素の化学的な構造について、まずはお話させて頂きます。
アゾ色素とは?芳香族アミンとは?
アゾ色素は、[-N = N-](N:窒素)を含む構造をしています。この結合をアゾ結合と呼び、この結合を有する染料・顔料をアゾ色素と言います(図1)。この結合が切れて[-NH2]となったものをアミンと言い、これにベンゼン環(亀の甲で有名ですね。)がくっついたものを芳香族アミンと言います(図2)。芳香族アミンの内、表1に示された24種の化学構造を持った特定芳香族アミン類は発ガン性が疑われているものがあり、未然防止の観点から、欧州をはじめ各国で規制されています。
表1 規制対象の特定芳香族アミン類
CAS No.及び名称 | 構造 | CAS No.及び名称 | 構造 |
92-67-1 4-アミノジフェニル 別名:ビフェニル-4-イルアミン | 838-88-0 4,4′-ジアミノ-3,3′-ジメチルジフェニルメタン 別名:4,4′-メチレンジ-o-トルイジン | ||
92-87-5 ベンジジン | 120-71-8 2-メトキシ-5-メチルアニリン 別名:6-メトキシ-m-トルイジン | ||
95-69-2 4-クロロ-2-メチルアニリン 別名:4-クロロ-o-トルイジン | 101-14-4 3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン 別名:4,4′-メチレン-ビス- (2-クロロ-アニリン) | ||
91-59-8 2-ナフチルアミン | 101-80-4 4,4′-ジアミノジフェニルエーテル 別名:4,4′-オキシジアニリン | ||
97-56-3 2-メチル-4-(2-トリルアゾ)アニリン 別名:o-アミノアゾトルエン | 139-65-1 4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド 別名:4,4′-チオジアニリン | ||
99-55-8 2-メチル-5-ニトロアニリン 別名:5-ニトロ-o-トルイジン | 95-53-4 オルト-トルイジン 別名:o-トルイジン | ||
106-47-8 パラ-クロロアニリン 別名:4-クロロアニリン | 95-80-7 2,4-ジアミノトルエン 別名:4-メチル-m-フェニレンジアミン | ||
615-05-4 2,4-ジアミノアニソール 別名:4-メトキシ-m-フェニレンジアミン | 137-17-7 2,4,5-トリメチルアニリン | ||
101-77-9 4,4′-メチレンジアニリン 別名:4,4′-ジアミノジフェニルメタン | 90-04-0 オルト-アニシジン 別名:o-アニシジン | ||
91-94-1 | 60-09-3 パラ-フェニルアゾアニリン 別名:4-アミノアゾベンゼン | ||
119-90-4 3,3′-ジメトキシベンジジン | 95-68-1* 2,4-キシリジン 別名:2,4-ジメチルアニリン | ||
119-93-7 3,3′-ジメチルベンジジン | 87-62-7* 2,6-キシリジン 別名:2,6-ジメチルアニリン |
*日本の法規制や中国(GB18401)等では、この2物質も規制対象物質です
規制について
(1)欧州、中国等の規制
表1の芳香族アミン類の内、欧州においてはREACHとして22種が規制されており、規制値は30 mg/kgとなっています。また、中国においてもGB18401として24種(欧州の22種+2種類のキシリジン)が規制対象になっており、規制値は欧州よりも厳しく、20 mg/kgとなっています。韓国等でも規制されている他、Oeko-TexやECO-LABEL等では自主基準として取り組まれています。
(2)日本における特定芳香族アミンを生成するアゾ化合物(染料)の法制化
日本においては、平成27年4月8日に「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」の一部を改正する政令が公布されました。また、平成27年7月9日に「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律施行規則」の一部を改正する省令(平成27年厚生労働省令第124号)が公布されました。その規制内容は、次の通りです。
①規制対象製品
【繊維製品】
おしめ、おしめカバー、下着、寝衣、手袋、くつした、中衣、外衣、帽子、寝具、
床敷物、テーブル掛け、えり飾り、ハンカチーフ並びにタオル、バスマット及び関連製品
(「タオル、バスマット及び関連製品」が一つの規制対象製品群)
【革製品(毛皮製品を含む)】
下着、手袋、中衣、外衣、帽子及び床敷物
②規制物質
化学的変化により容易に特定芳香族アミン(24種類)を生成するアゾ化合物。
※アゾ染料が対象であり、顔料は今回の規制対象外。
③基準値
30μg/g(=30 mg/kg)以下
④試験方法
JIS L 1940-1:2014、JIS L 1940-3:2014(=ISO規格≑EN規格)に概ね準じた試験。
⑤政省令施行日
平成28年(2016年)4月1日
試験方法について
特定芳香族アミン類の試験方法の概要を図3に示します。各規格を比較すると一部表現が異なる場合がありますが、試験の流れはほぼ同じです。 分散染料で染められた試料の場合、特別な抽出工程が必要になるため、繊維組成確認が重要です。分散染料は主にポリエステル繊維の染色に用いられています。 サンプル採取後(①)、(分散染料使用の場合はクロロベンゼン抽出を実施し、)試料中の色素を還元分解します(②)。この工程により、試料中のアゾ色素から遊離芳香族アミン類が生成します。遊離芳香族アミン類を、珪藻土カラムを用いて有機溶剤(t-ブチルメチルエーテル)相に移します。濃縮を行った後(③)、機器分析装置(GC-MS、HPLC等)により分析を行います(④)。
特定芳香族アミンの検出の有無は、機器分析装置を2種類以上用いて確認しております。規制対象である特定芳香族アミン類は良く似た物質が非常に多く、1種類の方法では誤認してしまう恐れがあるためです。分析結果の解釈には2種類以上の分析装置より得られたデータを精査する必要があり、高度な技術力が必要となります
まとめ
今回ご紹介させて頂いた特定芳香族アミン類試験については、欧州や中国等と同様に、日本においても平成28年(2016年)4月1日から法規制がスタートします。ボーケンでは、特定芳香族アミン試験を大阪、東京及び上海で実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
- <参考文献>
1) 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律第二条第二項の物質を定める政令(昭和49年政令第334号)
2) 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律施行規則(昭和49年厚生省令第34号)
3) JIS L 1940-1:2014. 繊維製品-アゾ色素由来の特定芳香族アミンの定量方法
第1部:繊維の抽出及び非抽出による特定アゾ色素の使用の検出
4) JIS L 1940-3:2014. 繊維製品-アゾ色素由来の特定芳香族アミンの定量方法
第3部:4-アミノアゾベンゼンを放出する特定アゾ色素の使用の検出
5) ISO 24362-1:2014. Textiles-Methods for determination of certain aromatic amines derived from azo colorants.
Part 1:Detection of the use of certain azo colorants accessible with and without extracting the fibres.
6) ISO 24362-3:2014. Textiles-Methods for determination of certain aromatic amines derived from azo colorants.
Part 3:Detection of the use of certain azo colorants, which may release 4-aminoazobenzene.
7) 化学物質国際対応ネットワーク. EU REACH規則 Annex XVII
http://www.chemical-net.info/pdf_reach/REACH_official%20journal_e20.pdf
8) EN 14362-1:2012. Textiles-Methods for determination of certain aromatic amines derived from azo colorants.
Part 1:Detection of the use of certain azo colorants accessible with and without extracting the fibres.
9) EN 14362-3:2012. Textiles-Methods for determination of certain aromatic amines derived from azo colorants.
Part 3:Detection of the use of certain azo colorants, which may release 4-aminoazobenzene.
10) 国家繊維製品基本安全技術規範 改定のお知らせ(GB18401)2010, No .81. (2011-09-283)GB/T 17592-2006「繊維製品 禁止アゾ染料の測定」
11) 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律の一部を改正する政令(平成27年政令第175号)
12) 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律施行規則の一部を改正する省令(平成27年厚生労働省令第124号)
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